書いた人の個性や特徴が現れた字を、「癖字」と呼びます。「癖字でごめんね」「直したい」と言われるたびに、わたしはいつも「そのままの字でいて」と思ってしまいます。ペンの持ち方、持っていた文房具、その時の気分、用途、本人の美意識……色んなものがぎゅっと詰まってできているその人だけの癖字が、私は大好きです。

 子供の頃から、癖字は気になる存在でした。
みんなで同じ書き順を習って、同じ書体を真似て練習したのに、いつのまにか全く違う字になっている。それがとても不思議だったのです。

 こんなこともありました。高校を卒業して、しばらく会っていなかった友人と会ったときのこと。レストランの予約欄に書いた字を見て、「その字、懐かしい。ひらがなの『な』が変なんだよね」と言われたのです。友人の記憶に残っていたことが嬉しく、癖字が、会っていない人のなかに記憶として残るほど個性のあるものだと実感して感動しました。

 いつか、ちょっとしたメモ書きや付箋の字を見て、「懐かしいな」と思えたら、思ってもらえたらいいな……そう思いながら、今でもなにかにつけては小さなメモ書きの付箋紙や手紙を渡したり、こっそり保管したりしています。